アイオライトのフォールスネーム一覧

パワーストーン意味辞典のアイオライトの項目で、フォールスネームについてWater Sapphire(ウォーターサファイア)を中心にお伝えしました。アイオライトには他にも 沢山のフォールスネームがあります。

    • Lynx Stone(大山猫の石)
    • Pelion(ぺリオン:ギリシア神話の神に由来)
    • Steinheilite(スタインハイライト:ロシアの将校にちなんで命名)
    • Sapphire d’eau(サファイアの水)、
    • Spanish Lazulite(スペインのラズライト)
    • Prismatic Quartz(プリズムの水晶)
    • Violet Stone(バイオレットストーン)

等々です。アメリカでは、高級なパワーストーンであるサファイアの代用品として人気が高く、TVショッピングなどで良く見かけます。 日本でもたまにジュエリーショップで見かけますね。今回は、これらアイオライトのフォールスネームについて、補足解説させて頂きたいと思います。

Lynx Stone:オオヤマネコの石

Lynx Stone(リンクスストーン)はオオヤマネコの石という意味。別の呼び名でLynx Sapphire(リンクスサファイア)があります。Lynxはギリシア語の「光」に由来する言葉です。真っ暗な闇夜の中でも、オオヤマネコは目が良く見える事から、古代ローマでは観察眼の鋭い人を「オオヤマネコの眼」と呼んで賞賛しています。英語では目の鋭い人の事をlynx-eyed (オオヤマネコの眼)と呼びます。

ちなみに、古代から中世にかけて、ヨーロッパでは超越的な観察眼の持ち主を「ボイオティア(古代ギリシアの地方名)の大山猫」と比喩しています。
中世キリスト教では、オオヤマネコの眼はキリストの全知性を表しているとし、明敏や明智の象徴として、貴族の紋章にオオヤマネコを用いています。

星座のやまねこ座にも関係があります。星座の起源は紀元前3000年のメソポタミア文明ですが、17世紀の大航海時代に入ると、星座の世界は大変革を起こします。1608年にオランダの眼鏡職人ハンス・リッペルスハイが実用的な望遠鏡を発明します。17世紀ヨーロッパは科学が大躍進する時代でして、天文学の父と呼ばれるガリレオ・ガリレイや万有引力の法則を発見したアイザック・ニュートンが大活躍した時代でした。新しい星座の時代の幕開けです。

やまねこ座は、そんな新しい星座時代に発見された歴史的に若い星座です。1687年に天文学者のヨハネス・ヘヴェリウスによって発見されました。おおぐま座とぎょしゃ座の間に位置し、明るい星が無い星座です。ヘヴェリウスは「この星座を見るには、オオヤマネコの様な鋭い眼が必要だ」と語っています。

Pelion(ペリオン):ギリシア神話の神ヒューぺリオンから由来

Hypelion(ヒューペリオン)とは、ギリシア神話に登場するTitan(ティーターン)一族の神様です。ティーターンとは、ゼウスを始めとするオリンポスの神々よりも古の神々で、巨大な身体を持った一族です。

ヒューぺリオンとは「高みを行く者」の意味で、太陽神・光明神と考えられています。未来を見抜くアイオライトとイメージがピッタリだったのでしょう。

Steinheilite(スタインハイライト)の由来はロシア軍の将校?

スタインハイライトの由来の前に、アイオライトの名前の歴史について、少しお話したいと思います。パワーストーン辞典:アイオライトでお伝えしたように、800年‐1050年の間、アイオライトはヴァイキングに海上の羅針盤として使われていました。太陽の位置を知る事が出来たのに由来し、サンストーンと呼ばれていました。

それから約800年。18世紀終わり頃の終わり頃に、アイオライトは宝石としてヨーロッパで注目され始めます。アイオライトはスカンジナビア半島の海岸沿いで、よく見付かるので、見た目がサファイアに似ている事もあり、当時の宝石業者の間ではウォーター・サファイヤ(サフィール・ドー)と呼ばれていました。

ジェームス・サワビー(James Sowerby:自然主義者でイラストレーター)によると
「一般的には、この石は30年ほど前に、スペインのガータ岬付近で発見された」
と、彼の著書であるエキゾチック・ミネラロジー(1811-1820)でアイオライトについて語っています。

アイオライトは麻岩中に粒状に散らばっていたり、または多量のガーネットを含む風化した粘板岩中に発見されました。当時の作家・知識人達は、この石を青色石英(Blue quartz)と呼んでいまいした。フランスの鉱物学者らは、この石は石英でもサファイアでもない別種の石だろうと考え、 アイオライト(Iolite) と名付けました。ここでようやくアイオライトの登場です(^^)
アイオライトとはギリシャ語のIos (スミレ)に由来します。、その柔らかな青紫に、スミレの美しさを見たのでしょう。学者さんというのは、意外とロマンチストなものです。

その後、フランスの地質学者ピエール・ルイ・コルディエがアイオライトの多色性を発見します。異なる方向からアイオライトに光を当てると、色が違って見える事に気が付きました。この事からコルディエは、
「やはり、アイオライトは石英でもサファイアでも無い別種の石だ!!」
と考え、ダイクロアイト(Dichroite:2つの色)と呼びました。ですが実際には、特徴的な3つの色(紫に近い青色・淡い青色・灰色がかった黄色)が見えます。

当初アイオライトは粒状であったり、不完全な結晶(6面ないし12面の柱面を部分的に示す)しか発見されませんでしたが、のちにフィンランドの オラジャーヴィーで黄銅鉱塊中にある大型の完全結晶が発見されます。

発見されたのがフィンランドであった事から、フィンランド総督を務めたロシア軍将校ファビアン・スタインハイルFabian Steinheilに因んでスタインハイル(Steinheilite)と名づけられました。命名者は元素記号を提案した化学者イェンス・ヤコブ・ベルセリウスです。発見した当時は、この石がスペインのアイオライトの仲間だと、気付く事が出来ませんでした。

「スタインハイルは、北部地方の鉱物学の進歩に大いに貢献した」
とサワビーは語っています。やがて成分分析が行われ、これらの石が、同じ仲間の独立種であると分かります。

一部の宝石関係者の間では、スタインハイルの名前の由来は、ドイツの物理学者で天文学者のCスタイン・ハイルだと思われていましたが、スタインハイライトの名が出た一番古い文献は1811年にサワビーが発行したエキゾチックミネラロジーです。その時Cシュタイン・ハイルは僅か10歳でした。この事から、彼が名前の由来だったとは考えにくく、ロシアの将校であったファビアン・スタインハイルが名前の由来であるというのが定説です。

その後、1813年に鉱物学的にはCordierite(コーディエライト)と名前が統一されました。フランスの地質学者のルイ・コルディエの名前に由来します。彼が名付けたダイクロアイトの名前は定着しませんでしたが、彼自身の名前が鉱物名になったわけです。スタインハイライトの名前が、歴史の表舞台に立ったのは、2年という短い間でしたが、アイオライトの歴史を語る上で、欠かす事の出来ない名前の一つです。

 Sapphire d’eau:サファイアの水

サファイアデュー(Sapphire d’eau)はウォーターサファイア(Water Sapphire)から派生したフォールスネームです。d’eau(デュー)とはフランス語でを意味します。英語表記でサファイアデュー(Sapphire dew)というのもあります。こちらの意味はサファイアのしずく
ちなみに、マウンテンデュー(Mountain Dew)ってジュースがありますよね?あれは「山のしずく」って意味です(^^)

Spanish Lazulite:スペインにラズライト(天藍石)は無い

まず始めに、
・Lazulite(天藍石)
・Lazurite(青金石)

上記2つの石は名前が似ていますが、別の鉱物です。
Lazulite(天藍石)とLazurite(青金石・ラピスラズリの主成分)はカタカナ表記すると、どちらもラズライトになるため、同じ石だと勘違いし易いですが、lazulite(天藍石)のスペルにはLが、Lazurite(青金石)にはRが使われています。この2つの石は英語表記でも似ている為、英語圏においても、混同してしまう事がしばしばある様です。

Spanish Lazulite(スパニッシュラズライト)は直訳すると“スペインの天藍石”になります。
Lazulite(天覧石)はヨーロッパ・アルプスで見る事が出来ます。アルプス山脈の地下深くで、マグマによって温められた水脈が、石英脈に影響を与えます。これを変成作用と呼びますが、Lazulite(天覧石)は、この変成作用を受けた石英脈中に発見されます。

ところでスペインとアルプス山脈の位置関係ですが、スペインはヨーロッパの南西部、アルプス山脈はヨーロッパの中央部にあるので、スペインにアルプス山脈はありません。当然、Lazulite(天覧石)も発見されないのですが、同じ青系の色を持ったIolite(アイオライト)はスペインを含むスカンジナビア半島の海岸沿いで発見できます。

スペインの天藍石(Spanish Lazulite)と商品名を名付けるとメリットが生まれます。Lazurite(青金石・ラピスラズリの主成分)とスペルが似ている為、

「スペインのラピスラズリだ!!」
と勘違いする人が出てきます。ラピスラズリは半貴石の中でも有名で、割と高価な部類に入るので、少しでも安くラピスラズリを手に入れたい人を騙すような商品名を、業者が付けた訳です。ですから、もしSpanish Lazuliteの名前を見つけたら

「アイオライトなんだな」
と思い注意しましょう。ラピスラズリの名前を借りずとも、アイオライトは十分に魅力的なパワーストーンです。

 その他のアイオライトのフォールスネーム

プリズマティッククオーツ(Prismatic Quartz)はプリズムの水晶という意味です。プリズムとは光を分散・全反射・屈折・複屈折させるガラスや結晶の事です。アイオライトの多光性や、ヴァイキングが太陽の位置を特定する為に用いた複屈折をイメージしてつけられたフォールスネームです。

バイオレットストーン(Violet Stone)とはスミレ色の石という意味です。アイオライトの名前自体が、ギリシア語のスミレに由来する言葉ですから、アイオライトの特徴をより分かり易くしたフォールスネームです。